都市の広場にある商業施設のうち、以前顧客の列が途絶えなかったブランドファッション店は、今や訪れる人は少ない。かつて敷居が高かった高級レストランも、顧客が減って、今では団體購入の対象だ。若い人は高望みしてカバンを買うことはなくなり、1個數十元(1元は約15.3円)のカプセルトイを買うようになった……こうした現象を前に、「低欲望社會が來た」と恐れおののく一部の人がいる。(文:劉遠挙、上海金融?法律研究院研究員)
こうした現象は次世代の若い人々の考え方や観念の変化をある程度反映し、より多様な暮らしの追求へとつながっている。しかしより重要なことは、このような低欲望の本質は欲望のモデル転換であり、欲望の消失ではないということだ。
中國経済データは「低欲望社會」の結論を支持しない
「低欲望社會」は日本の経営コンサルタント?大前研一氏のベストセラー「低欲望社會『大志なき時代』の新?國富論」から來ている。大前氏の目に映る日本は、高級専門店やデパートにかつてのような賑わいはなく、それに代わって至る所で100円ショップや大人気のユニクロ、次々出店するコンビニエンスストアを見かけるようになった。仕事から帰ると、男性はつきあいで出かけようとは思わず、家にとどまることを好む。都市のナイトライフにかつてのような華やぎはなく、夜の娯楽場所に出かける男性は20數年前より大幅に減少した。
消費スタイルと共に変化したのは、日本人の観念だ。日本人はもはやビッグブランドを追いかけなくなり、「ミニマリスト」や「斷捨離」が尊ばれるようになった。大前氏はこうした現象を概括して「低欲望社會」と呼んだ。——人口が減少し、高齢化が進み、向上心と欲望をもたない若者がどんどん増えているという。
しかし中國は日本と違う。40數年に及ぶ改革開放の高速発展期を経て、中國経済は非常に大きな発展を遂げ、國民の生活水準も驚異的な変化を遂げた。1952年から2018年までの間に、國內総生産(GDP)の一人あたり平均は119元から6萬4600元に増え、実質で70倍に増加した。しかし先進國と比較すれば、中國経済にはまだ大きな飛躍の余地がある。
今年の國慶節(建國記念日、10月1日)連休期間には、多くの消費データが過去最高を更新した。10月1-7日の全國の國內観光収入は6497億1千萬元を達成して、前年同期比8.47%増加した。同連休期間の各地の重點モニタリング対象の飲食企業の営業収入をみると、重慶市は同17.0%増加し、青海省は同16.3%増加、湖北省は同15.7%増加、四川省は同14.0%増加、江蘇省は同11.3%増加した。モバイル決済プラットフォームが発表した19年國慶節連休アウトバウンド観光報告によれば、同連休期間の中國人の海外旅行におけるモバイル決済消費額は再び過去最高を更新し、一人あたり平均決済額が2500元に迫り、同14.0%増加した。消費1件あたりの消費額も同11%増加した。こうした數字はいずれも消費にはまだ「低欲望」の兆しは現れていないこと、消費がある程度変化したことを示すものだ。
低欲望社會とは、実は欲望のモデル転換?高度化
実際、一部の人の目に映る低欲望社會は、より正確にいえば欲望のモデル転換?高度化なのだ。
上流階級?中産階級の人が1千萬元の家を買い、中産階級の人が50萬元の車を買い、ホワイトカラーが1萬元のアップルのスマートフォンを買う。こうした「高欲望」消費を行う時にも、多くの消費行為には「低欲望」の特徴がみられる。これは欲望が低下したのではなく、欲望がモデル転換したことに他ならない。
たとえば、はっきりとしたトレンドとして、中國人の文化サービス消費が急速に増加したことが挙げられる。18年上半期の全國國民の平均スポーツ?フィットネス活動支出は同39.3%増加し、ホテル宿泊支出は同37.8%増加した。
これと呼応するように、中國商業連合會と中華全國商業情報センターのデータでは、スポーツウェアの小売量がプラス成長を遂げたほかは、その他の衣類の小売量は前年同期に及ばなかった。アウトドアジャケットやユニフォームなどのスポーツウェアが増加したことは、スポーツ関連の消費が全體として増加したことを示す。スポーツ関連支出にはスペース、機械、設備などの支出も含まれ、ウェアはごく一部分を占めるに過ぎない。よって衣類に対する欲望が低下したように見えるが、実體は消費レベルが上がった欲望の上昇だ。
こうした現象は経済発展の法則に合致する。
衣類はこれまでずっと中國人が自分の品格や経済的地位を示す商品だった。そこで中國人は衣類に多額の出費をしてきた。経済発展にともない、人々の「自分のアイデンティティを示す選択肢」がより豊富になった。そうして服裝には、低欲望の特徴が現れている。たとえば農村では、春節(舊正月)で里帰りする時に、何を著るかはもはや重要ではなくなり、車で行けるかどうかがより重要になった。車にはコストがかかり、これまでお正月の新しい服を買うために使っていたお金が、自動車消費に回されるようになった。
注意しなければならないのは、中國経済は全體として低欲望社會説を支持しないものの、若い人の階層が固定化し、社會全體が高齢化の問題に直面し、一部に低欲望社會の特徴がみられることだ。とはいえ、一部の現象で全體を概括し、「中國人は低欲望社會に近づいている」といった結論を慌てて出すようなことをしてはならないことは明らかだ。(編集KS)
「人民網日本語版」2019年10月15日